空き家が行政代執行で解体されたときの費用は、所有者が負担します。行政代執行法2条が費用を義務者から徴収できると定め、6条は国税滞納処分の例で強制的に徴収することも認めています。
国土交通省近畿地方整備局がまとめた事例では、除却費用は約150万〜850万円でした。自分で業者を選んだ場合と違い、金額も時期も選べません。
以下は空家法と行政代執行法の条文(e-Gov法令検索)、国土交通省・総務省の調査、近畿地方整備局の実務資料によるもので、確認したのは2026年9月です。
代執行までの流れと費用
空家法22条は、特定空家等に対する措置を段階で定めています。
| 段階 | 中身 | 所有者にできること |
|---|---|---|
| 助言・指導 | 除却や修繕などを求める | 自分で対応を決める |
| 勧告 | 猶予期限を付けて措置を求める | 固定資産税の住宅用地の特例が外れる |
| 命令 | 期限を付けて措置を命じる | 事前に意見書・証拠を出せる。違反は過料 |
| 行政代執行 | 市町村が代わりに除却する | 費用を請求される |
行政代執行法は、代執行の前に文書で戒告し(3条)、代執行令書で時期と費用の概算の見積額を知らせるとしています。終わったあとは、実際にかかった費用の額と納期日を文書で示して納付を命じます(5条)。
払わないと強制的に徴収される
行政代執行法6条は、代執行に要した費用を「国税滞納処分の例により」徴収できると定めています。行政庁は、国税・地方税に次ぐ順位の先取特権を持ちます。
近畿地方整備局の資料は、徴収する金額は代執行の手数料ではなく、実際に代執行に要した費用だとしています。
| 事例の回収方法 | 件数 |
|---|---|
| 所有者から全額回収済み | 2件 |
| 所有者へ督促・財産調査中 | 1件 |
| 所有者へ督促、土地を差押えて公売予定 | 1件 |
| 所有者へ督促(接道が悪く換価性が低い) | 1件 |
| 法人解散の申立てをして清算人から回収予定 | 1件 |
自治体の声として、「費用回収可能性が低くても、著しく危険な状態の是正を優先している」とも紹介されています。回収の見込みが立たないことは、代執行をしない理由になっていません。
実例の除却費用
近畿地方整備局の資料に載っている6件の除却費用です。
| 構造・延床面積 | 除却費用 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| 木造平屋 34.0㎡ | 約150万円 | 解体費、動産調査、隣家家屋調査、界壁補強費 |
| 木造2階建て 49.38㎡ | 約180万円 | 動産調査、解体費等一式 |
| 木造2階建て 342㎡ | 約470万円 | 動産調査、保管・査定、解体費等一式 |
| 木造2階建て 75.69㎡ | 約570万円 | 解体工事費と設計委託費 |
| 木造2階建て 112.89㎡ | 約600万円 | 解体等工事費一式 |
| 木・鉄骨造 地下2階付き平屋 253㎡ | 約850万円 | 解体等工事費一式 |
代執行の費用には、解体そのもののほかに、設計の委託、家財の調査と保管、隣家の調査などが含まれます。
参考までに、自分で業者に頼む場合の木造30坪(約99㎡)の解体費用は、複数の業者が公開している料金の目安で90〜150万円です。建物の状態も工事の条件も違うので単純には比べられませんが、代執行の事例には同じ規模でこれを大きく上回るものがあります。
所有者が分からない場合(略式代執行)
所有者が亡くなって相続人が分からないなど、過失なく所有者を確知できない場合は、略式代執行になります(空家法22条10項)。
条文は、この措置を「命令対象者の負担において」行うとし、あらかじめ費用を徴収する旨を公告すると定めています。あとから相続人が分かれば、費用を請求されることになります。
| 代執行の種類 | 令和6年度の件数 | 平成27〜令和6年度の小計 |
|---|---|---|
| 行政代執行 | 71件(35市区町村) | 286件 |
| 略式代執行 | 81件(75市区町村) | 592件 |
| 緊急代執行 | 9件(8市区町村) | 12件 |
国土交通省・総務省の調査(令和7年3月31日時点、1,741市区町村)によるものです。略式代執行は、平成27年度からの累計で行政代執行の2倍を超えています。
通知が届いたらすること
- 通知の段階(助言・指導、勧告、命令)を確かめる
- 期限と、求められている措置(除却、修繕、立木の伐採など)を確かめる
- 解体の見積もりを複数社から取り、対応の予定を市町村に伝える
- 費用が用意できないなら、補助金や解体ローンを市町村の担当課に相談する
勧告を受けた土地は、固定資産税の住宅用地の特例の対象から外れます(翌年度の課税から反映)。放置で何が起きるかは空き家を放置するとどうなるかで、特定空家と管理不全空家の基準は特定空家と管理不全空家の違いで説明しています。費用の準備は空き家の解体費用が払えないときにまとめました。
よくある質問
代執行の費用を払えないとどうなりますか?
行政代執行法6条により、市町村は国税滞納処分の例で費用を徴収できます。近畿地方整備局の事例には、所有者に督促し、土地を差し押さえて公売する予定としたものがあります。払えない見込みがあるなら、命令の段階に進む前に市町村の担当課に相談してください。
代執行の前に、自分で解体すれば間に合いますか?
間に合います。空家法の措置は助言・指導、勧告、命令の順で進み、命令の前には意見書を出す機会もあります。どの段階でも、自分で業者に頼んで解体すれば措置の理由がなくなるので、通知が届いた時点で見積もりを取り、市町村に対応の予定を伝えてください。
相続放棄をしていれば、代執行の費用は請求されませんか?
相続放棄をした人に費用の支払い義務があるかは、放棄のときに空き家を現に占有していたかなどで変わります。民法940条の保存義務の扱いは、このサイトの「相続放棄した家の解体義務」の記事で説明しています。個別の判断は弁護士に確認してください。
代執行で壊された家の家財はどうなりますか?
近畿地方整備局の事例には、家財道具一式を運び出して保管し、引取期限を過ぎたあとに廃棄したものや、少額の現金を差し押さえたものがあります。残したい物があるなら、代執行の前に運び出してください。
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