相続した家を売るとき、選択肢は2つではなく3つあります。
古家付きのまま売る、解体して更地にしてから売る、そして更地渡し——売買契約を結んでから売主が解体して引き渡す方法です。3つ目は不動産の実務で普通に使われていますが、検索してもあまり出てきません。
どれを選ぶかは、税金・解体費用・売れるまでの期間の3つで決まります。順に見ていきます。
なお「更地のほうが高く売れる」という説をよく見かけますが、これを示した公的な統計は見当たりません。土地の条件と買主層によって変わるため、この記事では条件別の判断材料を示します。
3つの型を並べる
| 古家付きで売る | 更地にしてから売る | 更地渡し | |
|---|---|---|---|
| 解体費用を出す時期 | 出さない | 売り出す前 | 売買契約のあと |
| 住宅用地特例 | 売れるまで続く | 売り出した時点で外れる | 引き渡しまで続くことがある |
| 買主が見るもの | 建物と土地 | 完成形の土地 | 契約時は建物、引き渡しは更地 |
| 境界・地中の状況 | 分からないまま | 解体で明らかになる | 引き渡し前に明らかになる |
| 3,000万円控除 | 使えない場合がある | 使える | 契約次第で使える |
更地渡しは、売れる見込みが立ってから解体するため、解体費用の持ち出しと固定資産税の負担を同時に抑えられます。売主にとっては条件のよい形ですが、買主が付かなければ始まりません。
税金で見るとどうなるか
更地にすると軽減が外れる
住宅が建っている土地には住宅用地特例があり、固定資産税の課税標準が小規模住宅用地(200㎡以下の部分)で評価額の1/6、それを超える部分で1/3に軽減されています(国土交通省)。
解体して更地にすると、この軽減がなくなります。
固定資産税は毎年1月1日時点の状況で課税されるため、影響が出るのは翌年度からです。売却までにかかる期間で負担が変わります。
- 年内に売れる見込みがある → 1月1日をまたがないので、影響を受けずに済むことがある
- 売れるまで数年かかりそう → 軽減のない状態の税額が毎年かかり続ける
自分の土地でいくら変わるかは、市区町村の資産税担当窓口で「更地にした場合の税額」を聞けば分かります。課税明細書を持参してください。
3,000万円控除を使うなら解体が要る
相続した空き家を売る場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに、一定の耐震基準を満たすか、家屋を全部取り壊すことが要件です(国税庁)。
つまり、この控除を使うなら古家付きのまま売る選択肢は取りにくくなります。ただし改正により、買主が翌年2月15日までに取り壊す契約にしても対象になるため、更地渡しに近い形でも要件を満たせます。
控除額と解体費用を比べれば、多くの場合は解体したほうが手元に残ります。要件に当てはまるかは個別の事情で変わるので、税務署または税理士に確認してください。
買主層で見るとどうなるか
どちらが売れやすいかは、その土地を誰が買うかで変わります。
| 買主 | 好むもの | 理由 |
|---|---|---|
| 新築を建てたいファミリー層 | 更地 | 完成形を想像しやすく、住宅ローンの手続きも進めやすい |
| 投資家・事業者 | 古家付き | 価格が抑えられ、解体費込みで採算を計算できる |
| 自分で手を入れたい層 | 古家付き | 建物を活かす前提で探している |
| 隣地の所有者 | どちらでも | 土地を広げるのが目的 |
住宅地で新築需要が強い地域なら更地が向き、駅から遠い・面積が広い・古い建物に価値がある地域では古家付きでも動きます。
その土地でどちらの買主が付きやすいかは、地元の不動産会社が把握しています。 査定を依頼するときに「古家付きの場合」と「更地の場合」の両方で出してもらってください。差額が解体費用を上回るなら更地、下回るなら古家付きという判断ができます。
迷ったときの決め方
条件を当てはめて選びます。
| こういう状況なら | 向いている型 |
|---|---|
| 3,000万円控除を使いたい | 更地、または買主が解体する契約 |
| 解体費用をすぐに出せない | 古家付き、または更地渡し |
| 売れるまで時間がかかりそう | 古家付き(軽減が続く) |
| 新築需要の強い住宅地にある | 更地、または更地渡し |
| 建物がまだ使える状態 | 古家付き |
| 境界が不明確、地中に何かありそう | 更地(解体時に分かる) |
| 買主の見込みが立っている | 更地渡し |
複数当てはまる場合は、金額の大きいものから優先してください。3,000万円控除が使える状況なら、その要件が最優先になります。
決める前に揃える3つの数字
判断に必要なのは3つの数字だけです。どれも依頼した時点で契約にはなりません。
- 解体費用の見積もり — 複数社から取る。木造30坪で90万〜150万円が目安
- 古家付きと更地、それぞれの査定額 — 同じ不動産会社に両方で出してもらう
- 更地にした場合の固定資産税 — 市区町村の資産税担当窓口で確認する
この3つが揃うと、「更地にして◯万円高く売れるが、解体に◯万円かかり、売れるまで毎年◯万円の税負担が増える」という形で比べられます。感覚ではなく差額で決められるようになります。
数字が揃わないまま話し合っても結論は出ません。特に兄弟や親族で意見が割れている場合は、先に3つの数字を共有するところから始めてください。
売ったあとの税金の扱いは、その建物をどう使っていたかで変わります。取壊し費用が譲渡費用になるのか取得費になるのかは、解体費用は確定申告で経費になるかにまとめています。
売却までの全体の段取りは実家じまいの進め方、更地にしたあとの引き渡しの状態は解体後の整地費用を見てください。
よくある質問
更地にしたほうが本当に高く売れますか?
土地の条件と買主層によって変わり、どちらが高く売れるかを示した公的な統計は見当たりません。新築を建てる前提のファミリー層が主な買主になる住宅地では更地が好まれやすく、投資用や自分で手を入れたい層が動く地域では古家付きでも売れます。同じ土地について不動産会社に「古家付きの場合」と「更地の場合」の両方で査定を出してもらうと、その土地での差が具体的に分かります。
古家付きで売ると、あとから建物の不具合で責任を問われませんか?
売買契約で契約不適合責任をどう定めるかによります。古い建物では、現況有姿での引き渡しとし、建物について契約不適合責任を負わない特約を付けるのが一般的です。特約の書き方で責任の範囲が変わるため、契約書の文面は不動産会社と、必要なら弁護士に確認してください。
解体してから買主を探すのと、買主が決まってから解体するのでは、どちらが有利ですか?
買主が決まってから解体する更地渡しのほうが、固定資産税の負担期間が短く、解体費用の支出も遅らせられます。一方、更地にしてから探すほうが買主は完成形を見て判断でき、境界や地中の状況も明らかになります。売れる見込みが立っているかどうかで選び分けてください。
解体費用の分だけ値引きして古家付きで売る方法はどうですか?
実際によく使われる方法です。買主が解体費用を負担する前提で価格を調整するため売主は解体費用を用意せずに済みますが、買主側は解体費用を見込んで指値をしてくるので、値引き幅が実際の解体費用を上回ることがあります。指値の根拠として、自分で取った解体の見積書を提示できるようにしておくと交渉しやすくなります。
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